母親の彼氏の家にきた山内家一行(母、姉、私)であったが、徳光和夫に激似の彼氏率いる金持ちパワーの猛攻に合う。
果たして、メインイベントお茶会は滞りなく終わるのだろうか。
お茶会は彼氏が急に流し始めたジャズピアノが流れるリビングで行われた。
篠田麻里子激似の母の彼氏の娘と、やはりアイドル感が強い母の彼氏の娘其の2、そして母の彼氏が着席した。
突然だが、私は育ちが悪い。
いまだに箸の持ち方はわからないし、食卓におかずが2品以上揃ったためしがない。ひじをつき、ひざをたて、天才てれびくんをむさぼるように眺めていた食卓の人と気が常識である。
だからか、目の前の光景は信じる事が出来なかった。
きちんと揃えられたランチョンマット、皿の上に載った紅茶。ガラスのミルク入れ・・・。
ガラステーブルの上にはオレンジページの表紙に乗っているかのような光景が揃えられた。
※参考画像
ランチョンマットなんて使っている食卓、初めて見た。なぜコップの上に皿を置くのだろう?洗い物が増えるだけではないのか?それとも、もっているというのか・・?誰もが憧れるあの、自動食洗機を・・・!?
それにこの小さいガラスのミルク入れは何なんだ?
ミルクなんて直にいれるだろう。球体に筒が突き刺さったような形状をしている。しかも、取っ手、取っ手がないではないか。
中に白い液体が入っているからかろうじてミルク入れだとわかったが、恐ろしく手が出しにくく、私と姉は泣く泣くストレートで飲む羽目となった。
お茶会はしめやかに開催された。
軽快な話しぶりの母の彼氏、明るくまぶしい笑顔の娘さん方。そして緊張しまくりでのどが渇きまくる私。
【の、飲み物を飲まなくては・・・】
コーヒーに砂糖を入れた。スプーンでかき混ぜる。
【・・・待てよ?かき混ぜたスプーンはどこにおけばいい?】
こんなところに思わぬ罠が仕掛けられていた。
ランチョンマットの上、NO。汚れてしまう。
テーブルの上、NO。ふき取りやすいが、間違えていたら取り返しがつかない。
皿の上・・・。これが正解か・・・?
しかし、母の顔に泥を塗ってしまってはいけない。
(お父さんの彼女の息子さん、キョドっててキモかったね~!皿汚しまくってたしなんなの?しかも天パじゃん)
と言われてしまっては山内家の恥だ。ちくしょう。天パは放っといてくれ。
※天パの私
試案がいくつも頭の中を這いずり回っている中、とうとうヒントを見つけ出した。
篠田麻里子に似てる娘さんが、スプーンを入れたままコーヒーをすすっているではないか!
ハイクラスな彼女が行っている行為なのだから間違いはない。身近なところから得る知恵をすぐに活用だ。
わたしはスプーンをいれたままコーヒーをすすり始めた。すっかりぬるくなったコーヒーはぐんぐん私ののどを潤していく。
一言も発せず、ぺったりと張り付いてしまった喉がべりべりと開いていく。
さあ、名誉挽回だ!おしゃべりといこうではないか!!!
その瞬間だった
母「しゅうと、カップにスプーン入れたまま飲んでるじゃん。麻里子ちゃんみて真似したんでしょうけど間違っているわよ。それ。」
の、のぶえぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!(母の名前です。)
思っていても言ってはいけない言葉だろうそれは。
なんてことだよ、じゃあ事前に教えていてくれよそれは。
もうだめだ。篠田麻里子も恥ずかしそうにしているではないか。私が何をしたというのだ。ノブエの馬鹿野郎。ちゃんと育ててくれ。お前が育てればこんな失敗せずに済んだではないか。
しゃべろうとした喉が急速に閉じていった。
「・・・・あ・・・うぁ・・・ちが・・・ちがうんす・・・はは・・・」
お茶を濁しに濁した発言が宙を舞う。そこからの記憶はあまりない。
しかし、その直後だ。
母の彼氏の母が降臨した。
目を見張ったのはそのメガネだった。
細木和子を彷彿とさせる金持ちっぷりのある容姿の中でも主張をしてくるそのメガネ!!
めちゃくちゃでかいトンボのようなメガネではないか。
金持ちが最終的に行き着く場所は、お洒落なのかどうかも分からない個性的なメガネに収束するのだと私の中で持論ができた瞬間だった。
わたしはそのトンボのようにデカい眼鏡に心奪われた。
視線はメガネから外すことはできない。どんな会話も生返事に終わってしまう。
薄茶色の鼈甲のフチ、曲面を描いたやたら面積の広いガラス部分。そしてお金持ちのおば様がよくつけているメガネチェーン・・・。
完璧だ。完璧に金持ちのメガネだ。もう私が言うことは何一つない・・・。
気づいたらお茶会は終わっていた。
彼氏の家の玄関でわたしの手には娘さんから借りた「みんな!エスパーだよ!」というお下品極まりない漫画本。なんでこんな本を読んでいるのだろう?我々庶民に歩み寄ろうとしてくれたのだろうか、はたまた庶民が読む書物を勉強しより金持ちになろうとしているのだろうか。
金持ちの考えることは我々浅はかな賤民にはわからぬのだった。
帰り際、ミカン畑からかおる青い風が吹き、アルファロメオの輝くフロントガラスを撫でていった。
わたしは、また一歩、大人に近づけた気がした。