ダンス踊りたい。
そんな衝動が定期的に訪れる。
家でコタツをどかして、音をたてないようにコンテンポラリーダンスを踊る。
無音の部屋の中心で、僕が踊る。
社会のしがらみ、人の憎しみの輪から離れた小さな1Kで、砂漠に突如咲いた真っ赤なバラのように誇らしげに踊る。なんとも、快感だ。
僕のコンテンポラリーダンスはだんだんと激しさを増し、汗ばみながらも、笑顔は絶やさない。決して苦しむ表情なんて、見せない。
10分ほど踊ったところで、息も絶え絶えになりながらダンスを終える。
コンテンポラリーダンスの事は、あまり良く知らない。
どうも、よくわからない動きをするダンスの事らしいので、おそらく自分が踊っているのはコンテンポラリーダンスなのだろう。
本当は、こんな小さな部屋ではなく
多くのオーディエンスの前で
道端で、渋谷の交差点で、ダンスを踊りたい。
おもむろに黒人にダンスバトルを申し込みたい。
ラジカセを…担いでみたい。
しかし、ぼくはダンスが下手だ。
そんなことをしては、きっと、恥をかくだけだ。
社会のしがらみから逃げるための必死の抵抗としてコンテンポラリーダンスを踊っているのに。
ぼくはなんて、小心者なんだ。
いつか、上司に、魅せてあげたい。
僕の、コンテンポラリーダンスを。
上司が「おい、声が小さいぞ」と小言をはじめ、説教に入った瞬間
その刹那にMAXのコンテンポラリーダンスを始めたい。
「俺のコンテンポラリーダンスを喰らえ!!!」
上司にそう言いはなち、うろたえる上司を横目に見ながらデスクの上で踊り狂うのだ。
「おい、あいつ…」「狂ったか…?」「なにやってんだ…」
いつも仕事を教えてもらっている諸先輩方も見ている。
しかし、ダンスはやめない。むしろ激しさを増す一方だ。
ネクタイを外し、ワイシャツのボタンを引きちぎる。
玉の汗をまき散らしながら、手足をカクカクさせ、踊る。
見積依頼の書類も、客からの契約書も蹴散らしながら、踊る。
いつしか、上司も先輩方も僕のコンテンポラリーダンスのあまりの激しさ、そして美しさに圧倒され口をつぐむだろう。
そして死ぬ寸前まで踊った後、はつらつとした笑顔で「ありがとうございました!」と言い放ち、鞄をもち、営業車に飛び乗るのだ。
そして、海を、見に行くんだ…。
母なる海を…。