ぼくには少ないながらも友達がいる。
その友達は4人兄弟の三番目で上に2人の兄がいる。
そのうちの一人、次兄がこれはもう手に付けられないくらいのワルらしい。
友達から定期的にその次兄のことを愚痴られることがある。
友達「兄貴がまたバイクで捕まったっぽい」
とかはまだライトな方だ。
友達「兄貴が灯油まみれで帰ってきて、手には血の付いた灯油缶を握ってた」
くらいのレベルが月1くらいである。ちなみにこの時は爆弾魔に灯油をぶっかけられて火をつけられそうなところを辛うじてボッコボコにしたときらしい。
現代日本に、まだそんな破天荒なケンカエピソードがあるのかよ。
よくよく聞くとその次兄に灯油ぶっかけた爆弾魔はそいつの長兄らしく、部屋に爆発物が大量に保管されていて、一度誤爆して、比喩表現でなく家の屋根が吹き飛んだとのことだった。
お前んちの兄弟どうなってんだ。北斗の拳に出てくるトキとラオウでもまだマシなケンカするだろ。
まあ、そんなやんちゃでトリッキーな次兄に、友達もちょっとあきれた様子だった。
しかし、ある日友達が珍しく目を輝かせながらこう言ってきた。
「俺の兄貴が、ペンギンの王様になった!」
???
なに、言ってんだこいつ。
とうとう劣悪な家庭環境に耐えきれず、脳みそにあったか~い部分が出来上がっちゃったのかと思った。
話を聞いてみると、ちょっと違った。
友達の兄がペンギンの王様になった経緯はこうだ。
いつもながら夜の街をバイクで暴走する次兄。
ドラッグ的なものをやっていたのか、ディープに酔っていたのか、バイクが切り裂く夜風のにおいに惑わされてしまったのか知らないが
「パンダ、見てェな…。」
という思考にたどり着いてしまったらしく、彼の暴走するバイクは動物園に乗り付けた。もちろん、その動物園にはパンダはいない。
しかし、パンダがいないという事実だけでは次兄は止められなかった。
動物園の門をよじ登ってなんなく侵入した次兄。
お目当てのパンダはいなかったが、一人非公式ナイトズーを楽しむ次兄のテンションはぐんぐんとメーターを振り切っていった。
エンジンが焼き切れるほどぶちあがったテンションが次兄の脳みそをオーバーヒートさせてしまい、以下の思考に達した
「ピングー、殴りてェな…。」
なんでだよ。
と今でも思うが、もう彼について考えることは僕も友達も放棄している。
ピングーを探し、たどり着いたキングペンギンの泳ぐプール。
円形のプールの真ん中に氷山を模した陸地があり、そこに多くのペンギンたちが立ったまま眠っている。
おお、ピングーだ!
と思った瞬間に彼はプールに飛び込み、ペンギンが待つ氷山を上っていった。
そっから先は、単純にペンギンをバッタバッタとなぎ倒す。
「ペンギンをなぎ倒す」なんて言葉、使った経験があるのは僕とその友達、あとはオットセイくらいだと思う。
大きなキングペンギンをちぎっては投げ、プールに叩き落した次兄は氷山に上り詰め
「キングペンギンをぶっ倒したから、俺がペンギンの王様だ!!!!!」
と叫んだらしい。
これが友達の兄がペンギンの王様になった経緯だ。
1から10までアホみたいな話だが、信じてほしい。
その後、普通に捕まり
動物園の園長室で警察が来るのを次兄はおとなしく待っていたらしい。
すると、動物園の園長がやってきた。
園長「君は、なにがしたかったんだい?」
次兄「ペンギンの王様になりたかったので、キングペンギンをぶっ倒しました」
園長「そうか…。」
園長「…でも、キングペンギンの上にはまだコウテイペンギンがいるぞう?」
なにノッてきてんだ、園長。
園長のきさくな一言で場は一気に和やかな雰囲気になり
友達の兄は普通に書類送検された。